「自分の気持ちがわからない。」
このような人に、最近よく会います。悩んだり、迷ったりしているときだけでなく、頑張っているときにも、自分の気持ちがわからなくなります。そして、自分のやりたいことや目標から徐々に外れていき、迷路に嵌ってしまうのです。そうなると、状況を冷静に判断できなくなって、問題をこじらせてしまいます。その結果、更に苦しい状況に追い込まれていくことが増えていきます。
それでは、嵌ってしまった迷路から、どのように脱出すればいいのでしょうか? 一緒に考えてみましょう。
自分を大切にしていないって、どういうこと?
「自分の気持ちが、もうよくわからない。」と相談すると、「もっと自分を大切にしたほうがいいよ。」とか、「疲れているんじゃない?少し休んだほうが良くない?」というような、答えが返ってきた経験はありませんか?あるいは、「自分を大切にするとしたら、どれを選ぶ?」と、尋ねられたりしませんでしたか?
自分の気持ちがわからなくて悩んでいる人の多くに、共通していることがあります。それは、無意識に頑張っていたり、自分を責めたりしている、ということです。
私たちは子供の頃、親に愛されようと頑張りました。それは当然ですね。親に愛され、守られ、理解されなければ、生きていかれなかったでしょう。そのために、一生懸命、親の言うことを聞いて、良い子にしていました。勉強を頑張ったり、大嫌いな野菜を鼻をつまんで我慢して食べたりしました。それは、心のどこかで、頑張っていれば親に愛される、沢山のご褒美がもらえると思っていたからです。
それが、心の癖になって染み付いています。頑張らないのはとても怖いこと、愛されなくなることとして、無意識下で覚えさせてしまいました。そして、頑張らないと愛されない、ご褒美がもらえないと、思考を挟まずに反射的に判断するようにしているのです。だから、頑張らない自然体の自分は、駄目な人間なのだと、無意識に、心のどこかで自分を責めてしまいます。
また、自分はわがままだと感じる心の奥には、「私はわがままな人間だ。」と、自分を責めていたり、「私は人から嫌われている。」という気持ちが隠されている可能性があります。心のどこかで何となく、自分を大切にする事に抵抗感がある場合は、自分を責めている気持ちが働いていると考えられます。そこには、何かが足りないという感覚があり、それを求める気持ちも存在しています。
このように、自分に対して厳しかったり、すごく頑張っていたりすると、その状態が普通になっていきます。それで、自分を大切にしようとしたときに、違和感を覚えるのです。その違和感とは、「自分を甘やかしているのではないか?」、「私はわがままではないか?」、「人に迷惑をかけてしまうのではないか?」、「嫌われているのではないか?」などです。
問題を抱えているときや、疲れを感じなくなるほど頑張っているとき、誰でも心に余裕がなくなります。このような状態では、人を思いやったり、大切にできなくなったりしがちです。
無意識に自分自身を基準にしているので、そんなつもりはなくても、自分自身にたいするのと同様な要求をしてしまいます。辛くても仕方ない、我慢するのが当たり前だと、人に対しても自分の基準を押し付けます。その結果、思いやりに欠ける言動が増えていってしまうのです。
もし、自分を大切にしようと思って、もう頑張るのを止めようとします。そのとき、心の奥から、「そんなことして、自分を甘やかしているんじゃない?」という声が聞こえたとしたら、あなたは頑張り過ぎの可能性が大きいと言えるでしょう。何故なら、そう言っているのは、「頑張らなければならない」という心の癖だからなのです。
自分を大切にするって、どうするの?
自分の気持ちがわかるようになるための方法のひとつが、「自分を大切にする」ということです。今の自分がどのような状態であったとしても、そのような状態になったのは、それなりの理由があったはずです。ですから、そこで良い、悪いの判断をして審判を下さずに、そのままの状態を認めていくのです。
そうすると、本当はどうしたいのか、どうなりたいのか、何を望んでいるのかがわかるようになっていきます。もし、自分を責めてしまうと、心の状態がわからなくなったり、本当の気持ちが感じられなくなってしまいます。責められると、誰でも心を閉ざしてしまうのと同じです。焦らずに、神様になった気分で、空の上から大らかに自分を見るようにしてみましょう。
小さな頃は、親に依存しなければ生きていかれませんでした。すっかり忘れているかもしれませんが、自分の気持ちを押し込めていたことが、結構あるのですよ。親の言付けに従うことが、まず第一でしたから、無意識なのでなかなか気づけませんが、大人になっても、この状態が続いていることがあります。
社会人になっても、心の癖は残ったままなので、頑張っていれば愛される、沢山のご褒美がもらえるといった感覚も残ったままです。怒られないように、嫌われないように、ほめられるように、認められるようにと、人の顔色を伺いながら動くことが、すっかり身に付いてしまっています。
「こうすべき・こうしなければ」、「損か得か」が、行動を選択する基準になり、それが習慣になっているのです。そうすると、自分がどうしたいのかを考える回路は、どんどん退化してしまいます。
私は、どうしたいの?
自分の気持ちがわかるようになるために、最初に取りかかるのは、自分がどうしたいのかを感じる回路を復活させることです。何ごとも毎日の基礎練習が大事なのと同じように、回路を復活させるのも、基礎練習が大切です。
まずは、日常の些細なことから始めましょう。「私は、どうしたいの?」と、胸の中で尋ねることを習慣にしましょう。
例えば、「お茶にする?コーヒーにする?それとも紅茶がいい?」と、質問してみましょう。いつも無意識にコーヒーを飲んでいるのならば、「本当にコーヒーが飲みたいの?」と、確認しましょう。「今の気分は、お茶かな。」と、答えが返ってきたら大成功です。
「ランチはパスタ?それともサラダうどん?」と、質問しても答えがなかったら、心の中でシミュレーションしてみましょう。パスタを食べた気分とサラダうどんを食べた気分を比べてみるのです。想像力を働かせて、「美味しく感じるのはどっち? 幸せな気分になるのはどっち? 元気になるのはどっち?」と、思い描いてみて、それぞれを感じてみましょう。
今はこっちの気分、と答えを受け取ったら、その通りに行動しましょうね。
心の回路は、行動することで、受け取ってくれたことを確認します。すると、次はもっと早く確実に、どうしたいのかが伝わってきますから、より分りやすく感じ取れるようになっていきます。このように小さなことを積み重ねていくことで、自分の気持ちがわかるようになっていくのです。ぜひ、試してみてくださいね。
感情は平等
私たちには、感情があります。嬉しい、楽しい、ワクワク、幸せ、好きなどのポジティブな感情と、悲しい、苦しい、怖い、嫌い、不安などのネガティブな感情の両方を、誰もが持ち合わせています。それなのに、ネガティブな感情は、極力感じたくないと思ってしまいます。それを感じると辛かったり、憂鬱な気分になったりしますから、避けてしまうのですね。
ところが、ただ感じたくないでは済まないのです。驚くことに、私たち人間は、感じないようにするどころか、ないことにしてしまえるのです。
辛くなったり、憂鬱になるような感情は、ないことにしてしまえば、心の中は波風立たずに平穏な状態でいられます。ですから、平安平和、穏やかで問題がない状態を無意識に選んでしまいます。けれど、そのための代償は支払っているのです。それは、嬉しい、楽しい、ワクワク、幸せ、好きなどのポジティブな感情も、同時に感じなくなってしまうという、とても大きな代償です。
ないことにして感じなくなるためには、感情を感じるという回路そのものを麻痺させて、感じなくなって、ないことになるのです。そうなると、穏やかで問題がなくて、波風が立たずに平和で、普通にいられます。そのようなメリットは得られるのですが、心の状態としては、全体にぼやけた感じで、よくわからない、平坦な、変化のない状態が多くなります。
この状態が続いたら、自分の気持ちがわからなくなるのは、当たり前ですね。何が嬉しいのか、どのように楽しいのか、なぜワクワクするのか、感じること自体、もうわからなくなっているのです。
ネガもポジも、セットで感じる
辛さや苦しさを感じすぎて危険だと判断すると、心の制御装置が発動して、麻痺させたり、遮断するという対策をとる場合があります。そうすれば、心が壊れずにすみますから、そうして生きてきたのです。幸いなことに、これからは楽しく幸せに生きたいと決めれば、麻痺や遮断は、自分で解除することができます。そして少しずつ、感じるという感覚を取り戻せるのです。楽しいことも嫌なことも、セットで感じていきましょうね。
「今、私はどういう気持ちなの?」と、いつも自分に問いかける習慣をつけましょう。問いかけて、感覚の変化をゆっくり味わってみましょう。嫌な気分を感じても大丈夫です。落ち込んだり、腹を立てても問題ありません。あえて、自分の心に波風を立てる練習をするのです。
あなた一人で、ゆっくりと、ネガティブもポジティブも、あらゆる感情をただ感じて、しばらく持ちこたえてみましょう。焦らずに、少しずつ感情のフタを開けて、タマネギの皮を一枚ずつ剥くように、感じる感覚を取り戻していきましょう。
自分の本当の気持ちがわかってきたら、思考を介さずに、直感で、自分を大切にする方法を選択してみましょう。自分を大切にすると、心に余裕が生まれます。すると、とても自然に人に優しくしたり、冷静に状況を見極めて判断できるようになったり、人間関係が改善されて心地良くなっていきます。
そんな未来への第一歩、自分の気持ちがわかるようになってみましょう。